資料シリーズ No.178
企業内プロフェッショナルのキャリア形成
―知的財産管理と企業法務の分野から―

平成28年5月31日

概要

研究の目的

企業内プロフェッショナル人材の基礎研究として、今後の育成・キャリア支援に役立てることを目的とする。

研究の方法

文献調査とインタビュー調査

主な事実発見

20世紀以降、伝統的プロフェッショナルの要件に必ずしも合致しない新興プロフェッショナルが拡大するとともに、プロフェッショナルの企業・組織への取り込み・内部化が進展してきた。こうした企業・組織で活躍するプロフェッショナルが「企業内プロフェッショナル」である。

本研究では、宮下(2001)の組織内プロフェッショナルの定義を土台にして、改めて企業内プロフェッショナルの特徴を次のように整理した。

<企業内プロフェッショナルの特徴>

  1. 組織成員性:企業・組織の一員として活動するものであること。
  2. 一定の職務自律性:仕事と組織のどちらにもコミットメントし、一般的組織人に比べ職務の自律性が高いこと(ただし、伝統的プロフェッショナルには劣る。)。
  3. 組織中心性:所属企業・組織において、職位等に関わらず中心的位置にあり、担当職務の意思決定に中心的な役割を果たし得ること。
  4. 高度な専門性:所属企業・組織において活用する高い専門性を有し、その専門性は、企業を超えて社会的に通用する(汎用性の高い)ものであること。
  5. エキスパートとの区分性:専門性の高さ・広さ・汎用性等から、いわゆる専任職・エキスパートと区分されるものであること。

企業で活躍するプロフェッショナル人材に対する需要は高まっている中で、企業内プロフェッショナルがどのように、そのプロフェッショナルとしての専門性を軸にした能力とキャリアを形成するのかを明らかにすることが、今後の企業・社会のシステムの改善を検討するための重要なポイントとなる。

本研究では、これまであまり研究されてこなかった企業の管理スタッフに位置づけられる、知的財産分野と企業法務分野を対象に、次のリサーチ・クエッションをもとに研究を行った。

<リサーチ・クエッション>

  1. 企業内プロフェッショナルの本質:企業管理分野のスタッフ職が、プロフェッショナルたり得る本質(中核的要件)はどのようなものであるか。
  2. 企業内プロフェッショナルの基盤:上記①はどのような基盤(姿勢、習慣、基礎スキル・知識等)から形成されていったのか。
  3. 企業内プロフェッショナルのキャリア:上記②や①を育むキャリアとは、どのようなものか。

先に整理した企業内プロフェッショナルの特徴に該当する人々を対象とするインタビュー調査結果を、木下(2003)の開発した修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)により分析した。以下は、その結果の概要である。

<企業内プロフェッショナルの本質>

第一に、プロフェッショナルである前に《組織人性》が先立つこと。

【前提となる組織人としての活動】が重視され、組織人としての活動が行えないのであれば、企業内プロフェッショナルであることはできない。企業内プロフェッショナルは、組織人性を前提として関係部署をクライエントとして、その満足を得られるよう、【組織内でのクライエント志向】によって仕事を行う。

企業内での《プロフェッショナルとしての専門性》は、《組織人性》と《マネジメントとの関係性》を前提として発揮される。

第二に、《組織人性》を前提としながら、一般のホワイトカラーやエキスパートとの違いは、【多様な領域や場面に対応できる専門性】と【未知の事案に対する確かな判断軸】を中核とする《プロフェッショナルとしての専門性》があること。

【組織でのクライエント志向】から、【業務対象・相手についての理解】を持つ。そして、狭い範囲の業務処理にとどまらない、様々な職務経験を通じ【多様な領域や場面に対応できる専門性】を形成するとともに、【未知の事案に対する確かな判断軸】の形成が促される。特に【未知の事案に対する確かな判断軸】はプロフェッショナルたり得る専門性の核心といえるものであり、他社でも通用する知識・スキルは汎用性を土台にしながら、それを超えてその人ならではの【汎用性から独自性に至るレベル】に向かう。

図表1 <企業内プロフェッショナルの本質>の概念関係図

図表1画像

注)図表1~3では大カテゴリーを〈 〉、カテゴリーを《 》でそれぞれ表している。→は概念間の関係(必ずしも因果関係ではない。)を示している。図表3では⇒はカテゴリー間の関係を示している。

<企業内プロフェッショナルの基盤>

第一に、組織人としての活動は、《基礎となるビジネス・スキルの形成》によって適切なものとなり、一方、プロフェッショナルとしての活動は、《専門知識の習得》がなければ不可能であること。その中で、企業内プロフェッショナルにとって、【社内外の情報収集・調整・交渉のスキル】、【中核となる専門知識の習得】の2つは、特に必須の基礎といえるものである。

第二に、《基礎となるビジネス・スキル》、《専門知識の習得》の背景にあって、これらを形成・促進する大きな要因の一つが《基礎となる姿勢・習慣》における【成長をめざした自己変革の姿勢】にあること。

第三に、【成長をめざした自己変革の姿勢】とともに、《基礎となるビジネス・スキル》、《専門知識の習得》を形成・促進する大きな要因として、《実務で育まれる実践性》における【実務で育まれる活きた知識・スキル】と【知識と実践・経験のバランス】があるということ。

図表2 <企業内プロフェッショナルの基盤>の概念関係図

図表2画像

<企業内プロフェッショナルのキャリア>

第一に、企業内プロフェッショナルのキャリアは、《専門職務前の準備状態》、《一人前へのステップ》、《プロフェッショナルへのステップ》とつながっていくが、一人前へのステップで<企業内プロフェッショナルの基盤>を形成しておくことが求められること。

なお、年数を経て専門分野に就く場合に、その仕事に十分適応できるかどうかは、【専門分野への潜在的関心・興味】があり、かつ、専門分野に就く前からその仕事に関する知識ややり方をある程度身につけているという【専門分野配属でないときの準備状態の深まり】が見られるかどうかが大きなポイントとなる。

第二に、《一人前へのステップ》から《プロフェッショナルへのステップ》において、【プロフェッショナルへの深く広い過程】を歩むことによって、【多様な業務経験・知識の統合】を進め、《マネジメントとの関係性》をしっかりと持った《組織人性》を前提として、《プロフェッショナルとしての専門性》を発揮するようになること。

第三に、《一人前へのステップ》、《プロフェッショナルへのステップ》を通じて、《組織・人事がキャリアに与える影響》における【ジョブ・ローテーションの影響】を特に考慮する必要があること。

《一人前へのステップ》では、その期間において、<企業内プロフェッショナルの基盤>を形成できるかどうかが重要なポイントになり、企業・人事においてはそのようなジョブ・ローテーションとなっているかどうか確認する必要があろう。組織内にプロフェッショナル人材が少ないこともあって、そのことに無理解でプロフェッショナルとなっていくのに抑制的な働きかけをすることもある。こうしたことが【後進プロフェッショナル育成システムの不透明性】をもたらしている。

《プロフェッショナルへのステップ》では、【プロフェッショナルへの深く広い過程】を歩むことによって、【多様な業務経験・知識の統合】を進め、《マネジメントとの関係性》をしっかりと持った《組織人性》を前提として、《プロフェッショナルとしての専門性》を発揮するようになるが、このための核となる【多様な領域や場面に対応できる専門性】、【未知の事案に対する確かな判断軸】を養えるジョブ・ローテーションが行われるかどうかが重要なポイントになる。

第四に、企業内プロフェッショナルであるために、【キャリアの主体的選択】は不可欠なものであろうということ。

なんらかの節目において、自らのキャリアを見直し、【キャリアの主体的選択】を行っている。プロフェッショナルにとって、【成長をめざした自己変革の姿勢】を背景とする【キャリアの主体的選択】は、不可欠なものとなっている。

多くの大企業では、日本的雇用システムとして【長期勤続に有利な人事制度】をとっており、プロフェッショナルとしての能力を活かせなくても、定年までその企業にとどまった方がよいという誘因が強い。プロフェッショナルとして生きるための【キャリアの主体的選択】を避けることによって、《プロフェッショナルとしての専門性》を伴わないエキスパートにとどまる人々を増やすことにつながるという側面もある。プロフェッショナルへの【キャリアの主体的選択】が自然な形でなされ、それが尊重される制度の設計・運営が鍵となろう。

図表3 <企業内プロフェッショナルのキャリア>の概念関係図

図表3画像

政策的インプリケーション

企業で活躍するプロフェッショナル人材に対する需要は高まっている中で、企業内プロフェッショナルがどのように、そのプロフェッショナルとしての専門性を軸にした能力とキャリアを形成するのかを明らかにすることが、今後の企業・社会のシステムの改善を検討するための重要なポイントとなる。

政策への貢献

本研究は、企業内プロフェッショナル人材に関する研究の途中段階の資料として位置づけられるものであり、その研究成果を、当機構に設置した「企業内プロフェッショナル人材研究会」での検討に役立てる。

本文

本文がスムーズに表示しない場合は下記からご参照をお願いします。

研究の区分

プロジェクト研究「生涯にわたるキャリア形成支援と就職促進に関する調査研究」

サブテーマ「生涯にわたるキャリア形成支援に関する調査研究」

研究期間

平成26年~平成27年度

執筆担当者

亀島 哲
労働政策研究・研修機構 統括研究員

入手方法等

入手方法

刊行物のご注文方法をご確認ください。

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104
ご購入について
成果普及課 03(5903)6263

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