資料シリーズ No.140
中小企業の「採用と定着」調査に向けて

平成26年 5月30日

概要

研究の目的

経済のグローバル化と競争激化が絶え間なく続く中で、今後のわが国経済を考える際、安定的な雇用をいかに維持・増加させるのかは最重要課題の一つである。従業員数の大半を雇用する中小企業が活性化するか否かはきわめて重要である。その効果的な支援を検討するために、人事管理を中心に中小企業の経営の現状を調査する。「中小企業における人事管理」の領域はきわめて広い。本研究では、今後の労働市場の流動化も鑑み、中途採用を念頭におきながら、人材確保・採用管理を中心に実態を探る。

研究の方法

  1. 文献サーベイ
  2. 企業ヒアリング調査
  3. アンケート調査票の作成

主な事実発見

(1)文献サーベイからは、以下のような知見が得られた。

  1. 中小企業の採用活動について海外の研究は、1)大企業と比較した場合の中小企業の採用・人材確保活動の影響(アドホックなものになりやすい、非正規や派遣の活用に傾きやすいなど)、2)人材募集の手段における特徴(安価な方法が用いられやすいといった大企業と比べた場合の一般的な傾向と、採用力を高めたい中小企業の活動の特徴)、3)採用候補者の性格や信念などが重視されやすいといった選考過程の特徴などを、主に明らかにしてきた。

    また日本の中小企業を対象とした調査研究は、1)業種によって主要な採用・人材確保の方法が大きく異なること、2)企業の人事労務管理に着目すると、内部養成、業績重視、経験依存といった採用・人材確保の基本方針が浮かび上がってくること、3)採用ルートに関して、製造業はサービス業と比べて「公的・公共機関」への依存度がより高いこと、4)採用がうまくいく企業とうまくいかない企業では採用ルートの活用度合いに大きな差は見られず、前者において各種団体に加盟する傾向がより強いこと、などを明らかにしている。

  2. 中小企業の人材育成活動について海外の研究は、1)中小企業における人材育成活動が、活動にかかるコストと時間に左右されること、2)中小企業の人材育成活動における「組織社会化」の役割の大きさ、を指摘する。一方、日本の中小企業を対象とした調査研究が明らかにしているのは、1)人材育成の方法により、業種に沿った類型化が可能であること、2)中小企業における人材育成活動の契機は、a)新たな正社員の採用、b)業務遂行やキャリア形成上必要と考えられる公的職業資格の存在、c)管理・監督の役割を担うことができる従業員の確保、と見られること、3)「見える化」や、管理・監督職を対象とした取組みなど、人材育成活動との関連が強い取組みが存在すること、などである。
  3. 中小企業の人材確保に関するこれまでの調査研究の課題としては、第1に、中小企業の採用ルートや採用活動の特徴については調査研究が進められているものの、1)採用活動の背景・要因や、2)採用活動の効果といった観点から、調査項目相互の関係を分析・検討したものが少ないことが挙げられる。また第2に、日本企業を対象とした調査研究は、採用活動にしても人材育成活動にしても、中小企業のみを対象とした調査・分析が大半で、同じ問題関心で同時に大企業を調査しているものがほとんど見当たらず、そのために大企業と比べた場合の中小企業の特徴を見出すことができていないことを指摘できる。

(2)企業ヒアリング調査から

限られた事例ではあるが、製造業、非製造業の数社を対象として聞き取りを行った。

  1. 製造業企業では概ね、比較的長期の人材育成に注力している。採用経路(新卒・中途)の違いにかかわらず、自社で長期雇用を前提として内部育成という方針が共通している。さらに、現場の作業者の育成に加えて、部門の管理職の育成にも力点が置かれつつある。人材育成のターゲットが、製造現場や現場のチームをまとめる「自律したリーダー」から、「部門の業務を回せる」人材へと広がりを見せている可能性がある。そのための具体的方法は様々である。
  2. 中途採用がより活用されている非製造業の場合では、管理職というよりは、現場で業務を担う一般社員層の育成・定着にその力点が置かれる傾向が見られ、経営理念や事業戦略を共有することが同時に取り組まれている。それらは、企業への帰属意識を高めてもらうことを狙いとしているように思われるが、根本的には中途採用が多く、相対的に移動が盛んであるという状況への対応であろう。
  3. 転職を織り込んだ人事管理も見られた。スキルアップを理由に転職することを、会社として特段問題視しない事例である。企業は育てた優秀な社員を囲い込むという単純な図式を描くことが、必ずしも適当ではないことを示している。期限の定めのない契約を結びつつも、その関係は永続的ではないことを、双方(使用者/雇用者)が前提とするケースもあり、今後、可能性の一つとして十分考えられよう。
  4. コア人材の確保に関しては、事業部門・内容により、その方法が異なる場合がある。同一企業内であっても、内部育成型の部門と中途採用即戦力型の部門が並存している場合がある。

    このように、主として内部から育成するタイプ、外部から調達するタイプ、それらを合わせて用いるタイプなど、いくつかのパターンが見られる。そうしたタイプ分けと、業種別、企業内の部門ごとの検討が必要となろう。

(3)アンケート調査の考え方と枠組み

  1. 中小企業における人事管理を、採用と初期定着を中心に検討する。

    採用と初期の定着を中心とした人事管理の現状を 1)人材確保・採用の基本的な考え方、2)採用から初期段階の定着に関する施策、3)企業をめぐる外部・経営環境、4)コア人材の定着、一般従業員の定着・離職、人材充足度などの点を中心に検討する。

  2. 定着観を中心としながら、人材ニーズを明らかにする。

    「どういった企業で、どのような人材が必要とされているのか、定着してほしいと考えられているのか」を明らかにする。それは業歴、業種、規模などにより相当な幅があろう。こうした点を解明することは、中小企業におけるいわゆる日本型雇用慣行を検討することにも通ずる。

    図表1 中小企業における人事管理モデルのイメージ図

    図表1画像

  3. 必要となる人材のスペックを明らかにする。

    中途採用を念頭に置きながら、「どういったスペックの人材を、どのような方法で採用しているのか」を検討する。その際、量的、質的両側面から、コア人材の存在に着目する。

    図表2 コア人材の採用・育成に関する概念図

    図表2画像

  4. 初期定着の検討

    人事労務管理施策を、一般従業員とコア人材との間でどのように差異化しているのか、メンターの存在と役割などに着目しながら、検討する。

  5. 人材確保の成果

    一連の施策の成果・結果として、コア人材や定着してほしい人材が、期待どおりのパフォーマンスを発揮してくれたのか否かを検討する。

政策的インプリケーション

厳しい競争環境の下、業績の向上と共に働きがいある職場を築こうとする中小企業を、雇用・労働、人事管理の側面から支援する方策について検討するための基礎資料を提供する。

政策への貢献

今後、中小企業の人事管理に関わる職業能力開発および職業安定行政政策全般にわたる議論に、基礎的素材として貢献しうる。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究「企業の雇用システム・人事戦略と雇用ルールの整備等を通じた雇用の質の向上、ディーセント・ワークの実現についての調査研究」

サブテーマ「企業経営と人事戦略に関する調査研究プロジェクト」

研究期間

平成25年度

執筆者

田中 秀樹
青森公立大学専任講師
中村 良二
労働政策研究・研修機構主任研究員
藤本 真
労働政策研究・研修機構副主任研究員
西村 純
労働政策研究・研修機構研究員

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入手方法等

入手方法

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お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104
ご購入について
成果普及課 03(5903)6263

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