調査シリーズ No.74
中小サービス業における人材育成・能力開発
―企業・従業員アンケート調査―

平成22年11月12日

概要

研究の目的と方法

中小企業における人材育成・能力開発は、実際には時間的・資源的制約や、ノウハウの不足などから不十分なものになりがちで、中小企業の現状や今後の活動の方向性に即した政策的支援の必要性が高い。こうした問題意識から労働政策研究・研修機構では、2008~2009年度にかけて、サービス業・8業種( 1.建物サービス業、 2.学習塾、 3.美容業、 4.情報サービス業、 5.葬祭業、 6.自動車整備業、 7.老人福祉サービス業、 8.土木建築サービス業)の企業と従業員を対象とした調査(アンケート調査・インタビュー調査)を通じて、 (1)企業における人材の確保や評価・処遇、教育訓練の内容など、人材の育成とキャリア形成に関わる取組みの現状、 (2)勤務する従業員が勤務先の能力開発をどのように認識・評価し、また自身の能力開発に対していかなるニーズをもっているか、といった点を捉えようとした。本書では、アンケート調査の結果を業種別、従業員規模別に集計することで人材育成・能力開発における業種間、従業員規模間の異同を示し、各業種の特徴や、従業員規模による影響について明らかにしている。

なお、アンケート調査は関東地方の都県庁所在地(東京、横浜、千葉、さいたま、水戸、前橋、宇都宮)に本社が所在する上記8業種の従業員5名以上の企業・法人とそこに勤務する従業員(1社当たり最大2名)を対象に、2009年1~3月にかけて行われた。企業調査の回収数は897(有効回収率:25.8%)、従業員調査の回収数は1,317(有効回収率:18.9%)である。

主な事実発見

  1. 基幹的職種(=各企業・法人の事業であるサービスの提供において、中心的な役割を担っており、企業・法人内で最も人数が多い職種)に従事する従業員の育成・能力開発の進め方について業種毎の傾向を見ていくと、 (1)いずれの手段も積極的に活用される老人福祉業タイプ、 (2)職場での取組みやOff-JTといった会社による取組みをとりわけ積極的に活用される美容業タイプ、 (3)もっぱら職場でのOJTの取組みによっていると見られる葬祭業タイプ、 (4)自己啓発による部分が大きいと見られる情報サービス業・土木建築サービス業タイプ、 (5)いずれの手段もあまり積極的には活用されていない学習塾タイプ、に分けることができる。
  2. 基幹的職種に従事する従業員の育成・能力開発を進める上で課題にのぼっていることをあげてもらうと、老人福祉業では、「一人前に育ててもすぐやめてしまう」という回答の割合が他の業種の2~3倍に達し、美容業でも同様の状況が見られる。一方、情報サービスでは、「従業員が忙しすぎて、教育訓練を受ける時間がない」、「外部の教育訓練機関を使うのにコストがかかりすぎる」といった、自己啓発支援に依存するために生じがちと見られる課題を挙げる企業が多くなっている(図表1)。
  3. 従業員が自らの能力開発において課題に感じているのは、「忙しすぎて、教育訓練を受ける時間がない」、「従業員の間に、切磋琢磨して能力を伸ばそうという雰囲気が乏しい」といった点である。また「特に問題はない」という回答の割合は、回答従業員全体では4分の1程度を占めているが、老人福祉業では12.7%と他業種の従業員に比べて低くなっている(図表2)。
  4. 既存の資格・検定について企業・法人がプラスに評価する傾向が強い業種は、老人福祉業、土木建築サービス業、自動車整備業、建物サービス業で、逆に美容業、学習塾、情報サービス業ではマイナスに評価する傾向が他業種に比べて強い。プラスに評価する傾向が業種では、「専門性に対する意識を高めるのに有効」、「対外的に自社の従業員の職業能力をアピールできる」と回答する企業・法人の割合が高くなっており、反面マイナスに評価する傾向が強い業種では、「職業能力のごく一部を証明するにすぎない」という回答が多い。また、職業資格・検定に対する企業と従業員の評価を比べてみると、特に差が目立つのは美容業における「専門性に対する意欲を高めるのに有効である」の回答状況で、企業での回答率は3分の1程度にとどまるのに対し従業員では6割近くに達している(図表3)。

図表1 基幹的職種に従事する従業員の教育訓練を進める上での課題 (企業調査、複数回答、単位:%)

図表1 基幹的職種に従事する従業員の教育訓練を進める上での課題 (企業調査、複数回答、単位:%) /調査シリーズNo.74

図表2 仕事上の能力を高めていく上での課題(従業員調査、複数回答、単位:%)

図表2 仕事上の能力を高めていく上での課題(従業員調査、複数回答、単位:%)/調査シリーズNo.74

図表3 基幹的職種に従事する従業員に関連した資格・検定の評価(企業調査と従業員調査の比較、単位:%)

図表3 基幹的職種に従事する従業員に関連した資格・検定の評価(企業調査と従業員調査の比較、単位:%)/調査シリーズNo.74

政策的含意

  1. 基幹的職種に従事する従業員を企業・法人がどのような手段を通じて育成・能力開発していくかは業種により相違があり、こうした相違は育成・能力開発を進めるうえで企業・法人が抱えている課題の内容にも反映されている。以上を踏まえると、中小サービス業の育成・能力開発に対する支援は、各業種の特徴に対応し得る形で進められる必要がある。
  2. 本書と同じアンケート調査の結果を基にした分析によると、能力開発やキャリア形成の目安として位置付けている企業・法人はそうでない企業・法人に比べて、既存の職業資格・検定に対しプラスの評価をする傾向が強く、また職場での育成・能力開発のための取組みや、off-JT、自己啓発支援をより積極的に行っている(cf. 労働政策研究報告書 No.118 『中小サービス業における人材育成・能力開発』)。こうした分析結果と本書での知見を念頭に置くと、特に既存の資格・検定についてマイナスに評価する傾向が強い業種において、企業・法人にとって有効性の高い職業資格制度(あるいは職業資格と同様に機能すると考えられる社会的な能力評価基準)を確立していくことは、サービス業における育成・能力開発をより推進していく上で有力な方策となりうるものと考えられる。

政策への貢献

2011年に策定される予定の「第9次職業能力開発基本計画」などの立案にあたり、基礎資料として活用される。

本文

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研究期間

平成21年度

執筆担当者

藤本 真
労働政策研究・研修機構人材育成部門・副主任研究員
姫野宏輔
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程/労働政策研究・研修機構 臨時研究協力員
稲川文夫
労働政策研究・研修機構人材育成部門アドバイザリー・リサーチャー
開田奈穂美
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程/労働政策研究・研修機構臨時研究協力員
高見具広
日本学術振興会特別研究員/東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
福井康貴
東京大学大学院人文社会系研究科博士課程/労働政策研究・研修機構臨時研究協力員
見田朱子
日本学術振興会特別研究員/東京大学大学院人文社会系研究科博士課程
藤波美帆
高齢・障害者雇用支援機構常勤嘱託

お問合せ先

内容について
研究調整部 研究調整課 03(5991)5104

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