社会労働政策
イタリアの労働市場改革
―解雇法制を中心に

JILPTは平成25年10月24日、JILPT招聘研究員でイタリアの労働法・労使関係国際比較研究協会(ADAPT)リサーチフェローであるガブリエル・ガンベリーニ氏を講師に、海外労働情報研究会を開催した。以下、その講演の要旨を紹介する。

1.労働市場改革の目的

イタリアでは2012年に労働市場改革が実施された。この改革はモンティ元首相とフォルネーロ元労働大臣の名前をとって「モンティ・フォルネーロ改革(2012年法律第92号)」と呼ばれている。

2.労働市場改革の概要

(1)不当解雇に関する制度改正

ア.概観

イタリアでは、従来より、解雇が有効とされるには「正当事由」又は「正当理由」が必要とされてきた。「正当事由」とは、労働関係の継続をもはや許すことのできないような重大な非行を指し、この場合即時解雇が認められる。一方、「正当理由」には「主観的理由」と「客観的理由」が定められている。主観的理由とは「労働者の契約上の義務についての重大な違反」であり、「客観的理由」とは、事業所における経済的・技術的・組織的な理由を指す。

裁判所が解雇を不当であると認めた場合の救済方法は、小規模事業所と大・中規模事業所とで異なっている。小規模事業(労働者数15人以下)の場合、解雇が不当であると裁判所が認めても、解雇の効力は失われない。この場合、救済方法は金銭の支払い又は当該労働者の再雇用であり、使用者がどちらかを選択する。再雇用の場合は、解雇により元の契約は消滅しているので、新たな雇用契約を締結することになる。

一方、労働者数が15人を超える大・中規模事業所の場合、不当解雇は無効となる。そのため雇用契約は中断しないとの扱いになるので、当該労働者は原職への復帰と未払給与を請求できる。

今回、この労働者憲章法(1970年・第300号)第18条は2012年法律第92号により以下のような改正がされた。

今回の改正では、解雇に正当事由又は正当理由が必要である点に全く変更はない。今回の改正は、裁判所が不当解雇であると認めた場合の救済方法の変更などを内容としている。

イ.解雇通知

改正前は、使用者は解雇の際に理由を示す必要がないが、労働者は解雇から15日以内は解雇理由を聞く権利がある、というものであった。これが改正により、使用者は解雇前に解雇理由を書面で通知しなければならなくなった。

ウ.客観的理由による解雇

客観的理由による解雇とは、経済的理由、技術的理由、組織的理由による解雇を指す。今回の改正により、大・中規模事業所が客観的理由により労働者を解雇する場合事前手続として、調停(1966年・法律第604号)を試みることが義務づけられた。手続においては、使用者は解雇される労働者と労働省地方事務所に対して、(1)雇用契約を終了させる意向があること、(2)解雇の正当理由、(3)労働者の求職活動の支援措置、の3つを通知しなければならないとした。

労働省地方事務所は受理から7日以内に両当事者を地方調停委員会に招集して聞き取りを行う。そして受理から20日以内に手続を終えて調書を作成する。調停が成功すれば雇用契約は「合意」により終了し、法律に基づく支援措置及び職業紹介所の再就職支援が行われる。調停が失敗した場合、又は労働省地方事務所が7日以内に両当事者を招集しなかった場合は、使用者は解雇通知をして労働者を解雇できる。

制度改正前は労働省が手続に一切関わっていなかったが、改正により労働省が手続に参加することになり、労働者に対する保護が強化された。2012年7月の施行以来、2013年7月までに6000件の調停が試みられ、40%が成功している。

エ.労働者憲章法の再編

労働者憲章法の第18条において、「原職復帰」という表現が「不当解雇の場合の労働者の保護」に変更された。また、「差別的解雇」についての救済方法が定められるとともに、「労働者の規律違反を理由とする解雇(主観的理由による解雇)」、「客観的理由による解雇」についても、それぞれ、裁判所が不当な解雇であると判断したときの救済方法について規定がされた。

(ア)差別的解雇

差別的解雇についての救済方法の規定は、解雇理由が何であれ適用される規定である。また、あらゆる規模の事業所に適用される。加えて管理職にも適用される。性別や政治的信条などを理由とする差別のほか「産休・育休・結婚などを理由とした解雇」、「訓練休暇後の解雇」、「口頭での通知による解雇」、「内部告発者への報復的解雇」なども含まれる。

裁判所が差別的解雇と認めると、労働者は原職復帰または最大15カ月分の給与の支払いを要求できる。その他に、不当な失職により被った損害の補償(バックペイ。最低5カ月分)、社会保険料の支払なども認められる。

(イ)労働者の規律違反を理由とする解雇

「労働者の規律違反を理由とする解雇」は、「主観的理由による解雇」とも言い換えられる。「労働者の規律違反を理由とする解雇」については、「正当事由」又は「正当理由」がない場合は無効となる。具体的には、規律違反が立証されないときや、労使協定や就業規則に照らし、より軽い処分にすべき場合である。この場合、裁判所により解雇は無効とされ、被用者は原職復帰又は最長15カ月分の給与の支払いを要求できる。さらに、最大で給与の12カ月分の補償(バックペイ)、社会保険料の支払なども認められる。また、正当な主観的理由または解雇事由を使用者が示さない場合は解雇日において雇用契約は終了し、労働者は12~24カ月分の補償(勤続年数、労働者数、事業所規模により定められる)が行われる。また正当理由の提示義務違反又は規律義務違反解雇を行うために必要な適正手続違反があった場合も、解雇日において雇用契約は終了となり、労働者には6~12カ月(使用者の違反の重大性により定められる)の補償が行われる。これらの救済は、大・中規模事業所のみに適用される。

(ウ)客観的理由による解雇

この客観的理由による解雇が不当となる場合についての救済方法の規定も、大・中規模事業所のみに適用される。客観的理由による解雇(経済的理由、技術的理由、組織的理由による解雇)については、次の場合、不当とされる。

  1. 労働者の身体又は精神的な不適格が理由でない場合
  2. 企業の組織運営や生産活動が理由でない場合
  3. 病気休業、育児休業期間中の場合

これらに当てはまるときは、解雇は無効であり、原職復帰又は最長15カ月分の給与の支払いを要求できる。

また、最大で12カ月分の補償、社会保険料の支払なども認められる。

次に、客観的理由による解雇について、使用者の主張する正当理由に根拠がないか、

理由の根拠が十分でない場合には、労働契約は終了となる。この場合、解雇時の給与の12~24カ月分の補償(勤続年数、労働者数、事業所規模によって定められる)が行われる。

第三に、客観的理由によるとされた解雇が、差別的解雇又は労働者の規律違反を理由とする解雇であるときは、上記の救済に関する規定が適用される。

第四に、客観的理由によるとされた解雇について、正当な理由を提示しないとき又は調停についての義務を遵守しないときは雇用契約は終了となり、労働者に給与の6~12カ月分の補償(使用者の違反の重大性により定められる)が行われる。

(エ)解雇の撤回

労働者が解雇に異議を申し立てた場合、使用者は異議申立の通知から15日以内であれば解雇を撤回できる。使用者が解雇を撤回した場合、労働者は職場復帰する。使用者は解雇日から撤回日までの給与を支払う必要があるが、それ以外の賠償は不要である。

(2)集団的解雇における制度改正

この規制は大・中規模事業所である場合、同一事業所において120日間に5人以上の労働者を経済的理由、技術的理由、組織的理由のいずれかにより解雇する場合に適用される。

人員整理手続においては-これは改革後も内容に変更がない―使用者はまず書面により労働組合に対して、人員整理を決定した理由、対象者、再就職支援の内容を説明しなければならない。その後労働組合は解雇回避措置等を検討する協議を要求できる。この協議で合意が得られなかった場合、または協議の要求がなかった場合は、使用者は労働省地方事務所での協議に出席しなければならない。上記の一連のプロセスを経た後で、使用者は個々の労働者に解雇通知を出すことができる。

改正により、人員整理の手続きにおいて、労働組合が協約に署名することが定められた。これにより、労働組合が人員整理の手続違反についてチェックすることができるようになった。また、人員整理手続違反があった場合の救済の方法が見直された。手続違反には(1)書面による通知のない解雇、(2)労働協約違反、(3)人員整理対象者選定の基準違反である。

ア.書面による通知のない解雇

この場合裁判所は解雇を無効とし、原職復帰(または最大で15カ月分の給与支払)、不当な失職により被った損害として少なくとも5カ月分の給与支払い、そして社会保険料などの支払いを使用者に命じる。

イ.労働協約違反

解雇は有効であり、裁判所は解雇日における雇用契約の終了と、給与の12~24カ月分の補償を命じる。

ウ.人員整理対象者選定の基準違反

人員整理対象者の決定について、人種や性別による差別がなされるなど法令違反があった場合、裁判所は解雇を無効とする。この場合、裁判所は原職復帰(または最大で給与15カ月分の支払)、バックペイ(12カ月分以下)、社会保険料などの支払いを命じる。

(3)退職願の確認

イタリアでは労働者を雇用する際に、日付が空欄の退職願を提出させるということが行われる場合がある。労働者を辞めさせたいときに使用者が退職願に日付を記入して、退職という扱いにすることがある。

この不法な行為を防ぐために、従来より妊娠中の女性や子供を持つ父親など一定の労働者の退職願については、労働省地方事務所や地方職業安定所、労働協約で定められた機関などが退職願が労働者の自由な意思によるかどうかの確認をすることが定められていたが、今回の改革により、その範囲が拡大された。これまでは子どもの年齢が1歳以下の場合が対象であったが、3歳以下までに拡大された。

3.労働市場改革への評価

労働市場改革による法律は2012年7月から適用された。イタリアでは、従来は大・中規模事業所における労働者の解雇が裁判所において無効とされた場合の救済方法は、原職復帰が原則であった。今回の改革では、これに対して、「客観的理由による解雇」すなわち事業所の経済的、技術的、組織的理由による解雇について、「使用者の主張する正当理由に根拠がないか、理由の根拠が十分でない」と裁判所が判断したときには、原職復帰が認められず金銭補償による救済のみとなることなどが定められた。しかしながら、「客観的理由による解雇」が「企業の組織運営や生産活動が理由でない」と裁判所が判断したときは、今後も原職復帰が原則である。この2種類の要件が実際にどう異なるかは論争の対象となっており、現実には、ほとんど違いはないといえる。抽象的な規定であるので裁判所がどう判断するかにかかっているが、今のところ、裁判所は依然として原職復帰を命ずるケースが多く、金銭補償をするケースは増えていない。また、法律の規定について様々な解釈が可能であるため、ローマとミラノの裁判所で全く異なる判決が出るというような事態も懸念される。こうした、裁判所の解釈の裁量が大きい状況では、解雇する場合の費用の予測可能性が高まったとはいえないかもしれない。現状では、政治家が意図した改革目的が、十分達成されたと言い切ることはできない。

参考資料:

2014年4月 フォーカス: 社会労働政策

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